「お口のコンサルタント(当院の歯科医師)」による、生涯安心して健康な歯で暮らしていくためのマメ知識をご紹介いたします。
歯科用マイクロスコープは、一言で言えば、お口の中を拡大する顕微鏡です。その原理は、遠い星を眺める望遠鏡や、微細な生物の在りようを観察する顕微鏡と同じです。対象の像を対物レンズで拡大し、目に接する接眼レンズでピントがあうように調整することで、対象の像を観察できるようになるというものです。
一般の生物顕微鏡などと異なる大きな特徴は、デジタルカメラを搭載し、医師やスタッフ、患者さまがデジタル映像を共有できる点です。マイクロスコープを導入することにより、歯科治療の精度は格段にあがり、精密な治療を提供できるようになりました。
では歯科用マイクロスコープが歯科治療においてどんな効果をあげるのか見ていきましょう。
医師がルーペで患部を見たときの限界は、3cm程度の視野なのですが、マイクロスコープでは9㎜の範囲を拡大してみることができます。歯科用マイクロスコープは、患部を3倍から30倍程度にまで拡大することが可能なのです。暗くて狭いお口の中を、優れた医療用レンズと歯の根っこの奥まで照らすライティングシステムで精密にはっきりと確認することができます。
歯はとても小さなおからだの一部分です。繊細な判断と技術が求められる現代の歯科治療においては、マイクロスコープのもたらす視野は診断と施術において重要な役割を担ってくれるのです。
医院内の照明だけでは、狭いお口の中をはっきり見ることはできません。マイクロスコープは対物レンズ軸に近接した位置に設定されたLED照明で、根管内部まで十分に照射することができます。拡大したところを明るくし、詳細まではっきりとつぶさに観察することができます。
一般的な生物顕微鏡と異なるマイクロスコープの特徴は、デジタルカメラを搭載しているという点です。本体内にカメラを内蔵し、口腔内の組織や治療を外部モニター等に映し出すことができます。医師の治療に役立つだけでなく、患者さまと症状を共有し治療計画を深くご理解いただくこと、医療スタッフとの情報共有にも効果を発揮します。
狭くて暗いお口の中を明るく照射し、歯の根っこの奥深くまで詳細にみせてくれる歯科用マイクロスコープ。ではどんな場面でその威力を発揮するのでしょうか。
歯の根っこに膿がたまり、そのせいで歯ぐきが腫れている状態は、かなりむし歯が進行してしまっています。根管治療とは、細菌に感染した歯や神経を徹底的に殺菌して除去し、清掃・消毒して、空になった管の部分に防腐剤を詰めて密閉するというものです。それ以上の感染をストップさせ、歯の機能を維持させようとするわけです。
ところが歯根の形状は様々です。前歯と奥歯では歯根の形状も異なります。奥歯にいくほど、直接目視することが難しいのはご想像いただけますよね。歯肉の奥深く、歯の根っこのほうまで、マイクロスコープで明るく照射し、30倍近くまで拡大された映像を確認することで、膿の原因(感染源)を洗浄・除去する確度が格段にあがります。
むし歯が神経の近くまで進んでいる場合、ぎりぎりで神経を残す治療を選択できることがあります。マイクロスコープを用いた診断では、このぎりぎりのところを見極めることができます。もちろん、医師に高い技術が求められるのは言うまでもありません。
むし歯治療の基本のひとつとして、まずむし歯の部分を取り去り、詰め物をする治療法があります。この治療法ではむし歯になった部分を可能な限り除去することが重要なのですが、同時に、歯の健康な部分は極力削ることのないように細心の注意を払わなければなりません。そんな場面こそマイクロスコープが威力を発揮するときです。むし歯部分のとりのこしはほぼなくなるといってもいいでしょう。歯と歯の間の小さなむし歯、奥歯のむし歯も見逃すことがありません。
むし歯部分をとりのぞいたら詰め物をすることになります。被せものや詰め物と歯に、わずかな段差があると、そこから細菌がはいってむし歯が再発することも多いのです。細部まで歯を整えることにも、マイクロスコープは活躍します。型取りでも精度が格段に向上します。
歯周病治療の基本は、深くなってしまった歯周ポケットに器具をいれて、徹底的におそうじすること。歯周ポケットの中に蓄積されたプラークや歯石を観察し、肉眼では見えなかった感染源をとりのぞきます。
レントゲンでもわからないような微細な亀裂が歯の痛みの原因となることがあります。歯は、むし歯でなくても、硬いものを噛んだり、歯ぎしりや食いしばりの習慣によってひびがはいってしまうこともあるんですね。肉眼で見て原因が特定できない場合、マイクロスコープで観察することを選択する場合があります。
インプラント治療は、おからだの中に人工の骨を埋め込むという繊細な技術を必要とする手術を伴います。インプラントを埋め込む顎の骨の周辺には、重要な血管や神経が走っています。これらの組織を傷つけることなく、手術を安全におからだのダメージを最小限にして成功させるためには、インプラントを入れる位置を規定し、歯肉の位置をコントロールするといった細かい作業を確実なものとしなければなりません。マイクロスコープから得ることのできる精密な情報は、高度なインプラント手術の成功のために貢献します。
実はマイクロスコープは歯科医師のパフォーマンスの向上にも役立ちます。モニター上で患部を観察することができるという特徴は、医師が正しい座位の姿勢を保つことができるという面もあるのです。繊細で高度な技術と、時により長時間にわたる集中力が求められる治療において、マイクロスコープは患者さまのために医師をサポートしてくれるのです。
現代の歯科治療において、マイクロスコープは重要な役割を担っています。素晴らしいことづくめの機器なのですが、ちょっと奇妙な特徴もあります。それは、こうしたほうがいい・・・ という点が見えすぎてしまい、通常の保険診療で想定されている状況にあてはめることができないほど、治療の範囲が広くなる傾向はあるんです。一部保険適用できるケースもございますので、適切に、必要に応じて、より高い精度での診療を選択していきましょう。