「お口のコンサルタント(当院の歯科医師)」による、生涯安心して健康な歯で暮らしていくためのマメ知識をご紹介いたします。
こちらは千葉県の人口動態統計のうち、死亡の原因をまとめたものです。悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患に続き、肺炎や誤嚥性肺炎と続いています。腕災で亡くなる人のほとんどが65歳以上のご高齢者です。高齢化社会により肺炎で亡くなる人は増加しており、、その多くが誤嚥性肺炎によるものと言われています。
物を飲み込むことを嚥下といい、嚥下すると食ペ物は口から食道、胃へと入ります。このとき嚥下機能が低下していると、食道ヘ入るものが誤って気管に入ってしまいます。これを誤嚥といいます。誤嚥性肺炎は、口の中の細菌や唾液が食べ物と一緒に誤嚥され、気管支や肺に入ってしまうことで生じる肺炎です。
ではまず、食べて飲み込む、摂食嚥下機能についてご説明しましょう。摂食嚥下機能というのは、食べ物を口の中にとりいれて、噛んで、唾液とまぜあわせて食道のほうにそれを送り込むお口やお口の周辺の機能です。一連の動作を5段階に分けて「摂食嚥下の5期」と呼ぶこともあります。
食べ物を飲み込んで胃へ送り込むために、脳やお口はとても複雑な動作を行っているんですよ。
この5つの段階のどこかで、動作がうまく働かないことを摂食嚥下障害といいます。
とくにご高齢者は、摂食嚥下障害を起こしやすいのです。ご高齢者はいろいろな面で、お口の周辺が衰えてきます。歯が失われていたり、舌の運動機能が低下したりしています。咀嚼や唾液の分泌も、若い人と同じようにはできにくかったりします。お口の中の感覚が鈍くなったり、食物をのどへ送り込む筋肉が衰えていくことも考えられます。
摂食嚥下障害は、食物をとりこめないことにより栄養状態が低下を招いたり、脱水症状の原因となります。食べる楽しみを感じられなくなり、生活の質が下がってしまいます。そして食べ物をうまくあるべきところに飲み込むことができず、気道に間違ってはいってしまうことも起こりやすくなるのです。
食べ物の一部あるいは唾液が、食道のほうではなくて、気管のほうにはいってしまうことを誤嚥、それによって肺炎が生じることを誤嚥性肺炎といいます。
誤嚥性肺炎は、ご高齢者にとってはとても深刻な病気です。特に要介護高齢者では、死因の第1位の疾患が、肺炎と言われています。しかもその肺炎の原因が多くは誤嚥ということがわかっています。
そしてここが重要なのですが、誤嚥性肺炎の原因は口の中の細菌であることが多くみとめられるのです。お口の中の細菌が、気管や肺にはいって肺炎を起こすのが誤嚥性肺炎です。
摂食・嚥下障害がある人には、体型、筋肉の付き方、姿勢など、全身に及ぶ外見的な特徴がいくつか見られます。次のような様子が見られる方は、注意が必要です。
肺炎の特徴的な症状としては、「激しく咳き込む」「高熱が出る」「濃い痰が多くなった」「呼吸が苦しい」などがありますが、ご高齢者の場合、外見的な症状が軽いことが多く、「風邪」と間違われやすい面があります。「なんとなく元気がない」、「ぼーっとしていることが多い」、「食事に時間がかかる」「飲み込む前後にむせたり咳き込んだりする」、「口の中に食べ物を溜めてなかなか飲み込まない」などといった肺炎と無関係と思えるような症状でも、実は誤嚥性肺炎だったということがあります。
誤嚥は大きく4つのタイプに分類できます。1→4の順に重症度は高まり、肺炎のリスクが大きくなります。
1.機会誤嚥と、2.水分誤嚥の場合は、嚥下トレーニングを行ったり、飲食物に少しとろみを付けるなどの工夫をすることで誤嚥のリスクを下げることができます。何を飲み込んでも誤嚥してしまう食物誤嚥や唾液誤嚥の場合は医療機関の受診が必要です。
では誤嚥性肺炎の予防にはどうしたらいいでしょう。お口の中の細菌が気管や肺にはいって肺炎を起こすのが誤嚥性肺炎です。ですからお口のクリーニングが最も有効な予防法です。歯みがき、舌の清掃、義歯の手入れ等により、口腔内を清潔に保ち、肺炎の原因となる細菌数を減らすことが一番です。お口の中をきれいに保つことが誤嚥性肺炎の対策として重要です。
ご高齢者ご自身や看護・介護にあたる方による従来通りの口腔清掃をしたグループと、歯科医師・歯科衛生による週1回から2回の専門的な口腔ケアを行ったグループでは、2年後には肺炎の発症率がほぼ半分にまで下がるという調査結果も報告されています。
口腔内の清掃が行き届いてない状態では、肺炎の原因となる細菌が繁殖しやすくなります。食事や飲み物をとるときだけでなく、唾液を誤嚥する場合もありますので、胃ろうなどによりお口で食事をしていなくても誤嚥性肺炎は起こりえます。口腔ケアによる口腔内を清潔に保つことが誤嚥性肺炎の予防につながります。
誤嚥の予防法としては、大きくわけて2つの方法があります。食事を工夫する方法と、お口のトレーニング(摂食訓練)です。
誤嚥は、年をとれば誰にでも起こりうる老化現象です。ご家族にも・ご自身にも起こりうるでしょう。普段から関心を持って知識を蓄え、少しでも誤嚥性肺炎の発生を減らしましょう。