「お口のコンサルタント(当院の歯科医師)」による、生涯安心して健康な歯で暮らしていくためのマメ知識をご紹介いたします。
定期検診に行く最も大きなメリットは、歯や歯ぐきの異変をいち早く発見できることです。むし歯や歯周病は、痛みを感じるころには相当に進行してしまっていることが多いのです。
痛みがなくてもむし歯が進行している場合もあります。初期の、歯に穴が開く前の状態なら適切なケアで自然な回復を促すことができます。また、以前、治療した歯がむし歯になると、神経を抜いている場合には痛みは起こらないため、自分では気づきません。
歯科医師の検診で早期に発見できれば、歯を削ることもなく短期間の治療で治すことができるかもしれません。
定むし歯の治療をして、詰め物や被せ物をしている歯は、トラブルが起きやすいのです。医師の検診では詰め物や被せ物をしている箇所や周辺のトラブルを発見できることがあります。場合によってはレントゲン撮影をして悪いところを明らかにします。
治療の経過を追うというのも重要です。お口の中の環境も患者さまのおからだの状態も日々変わっていきます。むし歯や歯周病の治療後、悪いところがでてきていないか、矯正治療後の歯並びが適切に機能しているか、インプラント、入れ歯といった技工物の機能が損なわれていないか、などの視点で検診を行い、治療後の歯の維持管理に役立てます。
口の中の粘膜にできるがんを「口腔がん」と言います。舌や歯ぐき、頬の内側の粘膜ががんになることがあるんです。口腔がんの発生頻度は、がん全体のなかでは1~3%程度で多くの人がかかるわけではありません。、しかし、あまり知られていないため、発見が遅れると舌やあごの骨を切除しなければならなくなったり、死にいたることもあるのです。しかし、初期のうちに治療すれば、5年生存率は90%以上という報告もされています。
健康なお口の中の粘膜はピンク色ですが、前がん病変という粘膜の病気にかかると白く斑な部分ができたり、赤かったり黒かったりする部分ができたりします。医師による検診では、口腔がんになる可能性のある要素をチェックします。詰め物のまわりや舌のまわりなどに異変が起きていないかを観察します。
そして最後に、専用の機材を使って歯の表面を歯肉に隠れているところまで徹底的におそうじし、プラークや歯石を除去します。セルフケアだけではどうしても残ってしまうプラークや歯石は、細菌の固まりで、歯周病やむし歯の原因となります。徹底的なクリーニングがお口の健康を守る基本中の基本なのです。
お口の中の健康は、全身の健康に大きく関わってきます。例えば歯周病が進行すると、糖尿病や心臓疾患、脳梗塞を引き起こす可能性があります。歯並びがうまく機能せずよく噛むことができないと、脳への刺激が足りなくなり認知症の進行につながるとも言われています。健康な時から定期検診を受けることで、病気のリスクが軽減され、結果的に生涯にわたって必要となる医療費を減らすことにもつながります。
3ヶ月に1回程度の定期検診をおすすめします。むし歯の治療歴のある方、歯がやせてきた大人の方、適切なセルフケアが困難になってくるご高齢者はお口のトラブルが起こりやすくなります。定期検診の重要性をぜひご理解いただきたいと思います。
口腔内の健康は全身の健康と重要な関係があります。口腔内の問題が全体的な健康問題に発展することも少なくありません。
糖尿病は、『インスリンの作用不足が慢性高血糖の状態をおこし、特有の合併症や動脈硬化を進行させる病気』です。歯周病は「第6の合併症」とも言われており、糖尿病の方は歯周病の進行が著しく早くなるのです。
一方で歯周病に感染し毒素が体内に侵入しやすい状態になっていると、からだが毒素を排除しようとしてインスリンの作用を妨げる悪玉物質を作ってしまうのです。
つまり、歯周病をきちんと治療すると糖尿病が改善することが考えられるんです。歯周病の治療をすると血糖コントロールが改善するという報告もされています。当院のSNSの読者様から、「私もそれで血糖値が改善しました!」という喜びのコメントをいただいたこともあるんですよ。
歯に付着してプラークを形成する菌は、臓器にも付着します。血管内の細胞に付着したプラークが血管を狭めたり、心臓弁膜症の治療中の方の人工弁や、関節リウマチを治療中の方の人工関節にくっついて細菌の巣となってしまいます。口の中の細菌が、循環器、呼吸器、消化器などに慢性炎症の原因となってしまうことがあるのです。
インフルエンザといったウイルスで感染する感染症は、ウイルスが細胞の中にはいりこむことで発症します。ウイルスが細胞の中に入り込むには、細胞をこじあける鍵が必要です。歯周病菌に由来する酵素が、この、ウイルスを細胞の中に侵入させる鍵となってしまうんです。口腔内を清潔にすることで、細胞間の感染が抑えられ、重症化のリスクを軽減できるのではないかという報告がされています。お口の中の健康は、感染症にも関係があるんですね。
歯周病菌が、アルツハイマー型認知症の原因となる研究結果が報告されています。2019年に九州大学が発表した研究で、本当にごく最近のことですね。介護の現場では、歯の本数が少なく、よく噛むことができない人ほど認知症の進行が早いと認識されています。お口の中が健康に機能して、自分でよく噛むことができれば、認知症予防にもつながるんですね。
人生が終わりに近づいたとき、要介護の評価が4ないし5と認定される人は130万人ほどいらっしゃいます。「寝たきり」となってすごす方は100万人以上いらっしゃるようです。一方、高福祉・高負担の国で知られるスウェーデンでは、寝たきりのご高齢者はほとんどいらっしゃらないのです。
スウェーデンは予防歯科先進国としても知られ、70代の方でも自分の歯が21本以上残っています。日本人は、70代で残っている歯は平均で16本程度。高齢になったとき、歯の残っている数が多く、お口の中が衛生状態が保たれていることが、その方らしく健康に過ごせる要因のひとつであることは間違いないのです。
『経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)』において、日本政府は新しい資本主義の実現に向けた重点投資分野として、「人への投資」を挙げています。この中で、国民皆歯科検診の義務化が検討されています。
定期的な歯科検診を通じて、問題を早期に発見し、適切な治療を受けることは、私たちの健康寿命に直接的に繋がっているのです。